藍嘉比沙耶による個展「ミル・クレープ2」をPARCO MUSEUM TOKYOにて開催いたします。本展は、2020年にHENKYOで開催した、異なる技法/コンセプトによる4つの作品シリーズを集めた『ミル・クレープ』の2回目の開催となります。

滲みの技法を使った“アウトライン”、作品の制作過程を表現した“process”、描いては写してを繰り返して制作する”ぺったん”、形にフォーカスした”form”の4シリーズの新作を発表いたします。
是非ご高覧ください。


藍嘉比沙耶(1997年生)は、セル画技法を用いた日本の商業アニメーションが隆盛を極めた1990年代前後に登場したキャラクター造形に着目し、その美学的・文化的文脈を参照しながら平面作品を制作している。

制作においては、紙、鉛筆、iPadといったアナログおよびデジタルの手法を併用し、まず視覚的図像を緻密に構成する。完成されたイメージは、プロジェクターを用いてキャンバス等の支持体に転写され、絵具による着彩によって最終的な作品として結実する。この一連のプロセスは、計画的に構築された図像を再び手作業で反復・再現するという構造をとり、素材の物理的特性―たとえば絵具の質感や筆致の揺らぎ―が不可避的に図像に介入し、予期せぬ表情や曖昧性を作品にもたらす。

 

“form” シリーズ

色面と線のみで表現された画面構成を特徴とする。図像は一見キャラクター的イメージとして認識されうるが、色彩単位で視覚情報を分解して捉えることで、個々の形態が浮かび上がる構造となっている。これらの形態は、純粋な形としての視覚的快楽も鑑賞者に提供する。

“ぺったん” シリーズ

藍嘉比の実践のなかでも特異な位置を占める。従来の構成とは異なり2枚1組となるこのシリーズでは、一方の作品に作家の直接的な操作が一切加えられない。

制作過程は、下地処理を施したキャンバスに絵具を載せた後、その上に未処理のキャンバスを重ねて”絵の具を移す”というシンプルな物理的行為に基づいている。この方法により、絵具の量や筆致の痕跡、重ねるという行為そのものが可視化される。作家のコントロールから意図的に逸脱することで、「絵画行為」に内在する偶然性が前景化されるのである。本シリーズは、絵画の制作における「行為の痕跡」としての記録性を追求する。

“process” シリーズ

絵画制作における段階的なプロセスそのものを可視化し、作品の主題へと昇華させた試みである。
鉛筆で描かれた線はアーティストの発想や構想を表し、黒い絵の具で描かれた線が具体的な形や輪郭を与え、最後に塗られた色面が色彩や表現の最終段階を示している。こうした段階的手法は、キャンバスという物質的基盤の上にイメージがどのように構築されていくかを観者に示し、制作行為そのものが絵画表現の一部であることを強調している。

“アウトライン” シリーズ

従来の線による輪郭形成を意図的に排除し、水と絵具の偶発的な相互作用を画面上に展開する試みである。支持体として用いられるのは下地処理を施さない生キャンバスであり、その上に大胆に水を吹きつけることで、絵具の広がりや混色が不可逆的に進行する。明確に構想された色面や形態は、水と顔料の相互作用によって予測不能な変容を遂げ、結果として初期のイメージとは異なる全く新たな像が立ち現れる。藍嘉比自身が語るように、本シリーズは作家の意図から逸脱した絵画の制作過程を肯定的に捉え、計画と偶然、コントロールと逸脱という二面性を表す。

  • 藍嘉比沙耶 “ミル・クレープ2”
    期間:2025.6.13(金) – 6.30(月)
    時間:11:00 – 21:00
    場所:PARCO MUSEUM TOKYO(渋谷PARCO 4F) 東京都渋谷区宇田川町15-1